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東京高等裁判所 平成11年(ネ)324号 判決 1999年8月30日

控訴人(本訴被告(反訴原告)) 株式会社化工機A&B

右代表者清算人 A

右訴訟代理人弁護士 植松宏嘉

被控訴人(本訴原告(反訴被告)) 日光商事株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 佐藤淳

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  横浜地方裁判所川崎支部が同庁平成九年(手ワ)第一〇号約束手形金請求事件につき平成九年九月二二日言い渡した手形判決及び同(手ワ)第一六号約束手形金請求事件について同年一二月一七日に言い渡した手形判決をいずれも取り消す。

3  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金一六七二万五四七九円及びこれに対する平成九年一一月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審及び右手形訴訟の分とも被控訴人の負担とする。

6  4項につき仮執行宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四頁四行目の「物件目録」を「約束手形目録」に改め、同五頁三行目から末行までを次のとおり改める。

「1 手形抗弁

(1)  融通手形の抗弁

本件各手形の原因関係はいずれも存在せず、融通手形として振り出されたものか。

(控訴人の主張)

株式会社西川電機製作所(以下「西川電機」という。)が、控訴人に対し、FRP(強化プラスチック)成型品製造の架空の工事を発注し、この工事代金の支払名下に控訴人宛に約束手形を振り出し、控訴人は、同様にその工事を被控訴人に架空発注し、その工事代金の支払名下に被控訴人宛に約束手形を振り出し、被控訴人は、これをさらに西川電機に架空発注し、その工事代金の支払名下に西川電機宛に約束手形を振り出すという形で、本件各手形を融通手形として振り出していたものである。

よって、本件各手形は原因関係が存在しないから、控訴人は、右各手形の受取人である被控訴人に対し、原因関係不存在の抗弁をもって、右各手形の支払を拒むことができる。

(被控訴人の主張)

本件各手形は、それぞれ、真実の売買ないし請負契約に基づいて振り出されたものであり、原因関係不存在でもなく、また融通手形でもない。

(2)  予備的抗弁1関係

仮に本件各手形の原因関係たる製造販売契約があるとしても、同契約は通謀虚偽表示により無効か。

(控訴人の主張)

本件各手形の原因関係である各製造販売契約は、控訴人において被控訴人からFRP成型品の製造販売を受ける意思はなく、被控訴人においても同製品を製造販売する意思がなく、控訴人と被控訴人とは互いにその旨の意思を通じて虚偽の意思表示をした結果締結されたもので無効である。

よって、控訴人は、右各手形の受取人である被控訴人に対し、原因関係が無効であることを理由とする人的抗弁をもって、右各手形の支払を拒むことができる。

(被控訴人の主張)

すべてが真意に基づく法律行為であり、通謀虚偽表示ではない。

(3)  予備的抗弁2関係

本件各手形の受取人である被控訴人から振出人である控訴人に対する各手形金の請求は権利の濫用又は信義則に違反するか。

(控訴人の主張)

前記1、2のとおり、控訴人と被控訴人との間のプラスチック成型品の製造販売契約は存在しないか、そうでないとしても無効であるので、そのことにつき悪意の被控訴人がそのような契約の代金支払名下に授受された本件各手形の権利を行使するのは、権利の濫用であり、信義則に違反する。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、一般悪意の抗弁をもって、右各手形の支払を拒むことができる。」

(被控訴人の主張)

被控訴人は、本件各手形に対応するプラスチック成型品製造の代金を、西川電機FRP事業部に支払ってその所有権を取得し、これを控訴人に売って、その代金支払のために振り出された本件各手形を所持しているのであるから、正当な所持人であり、自己が正当に所持する手形の手形上の権利を行使するのは当然で、権利の濫用でも信義則違反でもない。

二  同六頁六行目の「債権執行により、」の次に「持出銀行である」を加え、同七行目の「提出し」の次から同九行目の「提出して、」までを「、さくら銀行から東京手形交換所規則六七条一項七号に基づき差押命令送達届が提出され、その結果、支払銀行である」に改める。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の請求は理由があり、本件各手形判決を認可すべきものと判断する。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決八頁一行目から二行目にかけての「エンジニアリング事業部」の次に「等」を、同四行目の括弧内の冒頭に「甲五、」を各加える。

二  同一一頁三行目の「原告に」の次の「発注し、」を削る。

三  同一二頁一行目及び同三行目の各「発注額」を「受注額」に各改める。

四  同一三頁末行の「西川電機」から一四頁二行目の「上げており、」までを、「それぞれの受注額の三・五パーセントあるいは二・五パーセントに当たる額が利益になるようにそれぞれ発注額を設定して利益を上げており、右利益は」に改める。

五  同一五頁三行目から九行目までを次のとおり改める。

「2 以上の事実によれば、西川電機エンジニアリング事業部と控訴人との間、控訴人と被控訴人との間及び被控訴人と西川電機FRP事業部との間にはFRP成型品の制作請負ないし売買という取引があったと認められる。なお、本件各取引の対象とされたFRP成型品は、現実に西川電機エンジニアリング事業部がセイコー化工その他から受注したものであり、また、西川電機FRP事業部において制作され、最終ユーザーのもとに納品されているのであって、本件各取引に関与した当事者間に現実の商品の移動がないからといって、本件各取引が存在しなかったということはできない。そして、本件各手形は、本件各取引のうち、控訴人から被控訴人に対する代金支払のために振り出されたものと認められるのであるから、本件各手形が融通手形であり、その原因関係が不存在であるということはできない。

よって、控訴人の融通手形の抗弁は理由がない。

3 原審における証人Cは、本件各取引について、西川電機から被控訴人に対する発注額を指示されており、単に伝票類のやりとりをするだけで控訴人及び被控訴人の双方ともにその取引をする真意がなく全くのペーパー取引であった、双方とも互いにそのことを認識していたとの趣旨を述べるが、前記1(二)で認定した本件各取引が行われるようになった経緯からすると、西川電機において独立採算制を採るFRP事業部は、被控訴人からの発注により実際にFRP成型品を製造し、被控訴人は控訴人からの発注により西川電機(FRP事業部)に発注したものと認められ、少なくとも被控訴人の側に本件各取引をする真意がなかったものとは認められない。また、控訴人が西川電機から被控訴人に対する発注額を指示されていたことや控訴人と被控訴人との間の取引は伝票類のやりとりだけであったことが、直ちに本件各取引をする真意がなかったことを意味するとはいえない。したがって、右証人Cの供述を採用することはできず、他に控訴人及び被控訴人の双方ともに、その取引をする真意がなく、これを仮装することについて意思を通じたこと、を認めるに足りる的確な証拠はないから、本件各取引が通謀虚偽表示により無効であるということもできない。

よって、控訴人の予備的抗弁1は理由がない。

4 そうすると、本件各取引が存在しないか又は無効であることを前提とする予備的抗弁2も理由がないことになる。そもそも、被控訴人は西川電機(FRP事業部)に対しFRP成型品制作の代金を支払わなければならず、同製品を被控訴人に売却した以上、被控訴人に対してその代金を請求し得ることは、いうまでもないことであるから、右代金の支払のため振り出された本件各手形の手形金を請求することは、何ら信義則に違反せず、また、権利の濫用にも当たらず、一般悪意の抗弁の主張も失当である。

よって、控訴人の予備的抗弁2も理由がない。」

六  同一六頁一行目の「持ち出し銀行」を「持出銀行」に、同末行の「に関する支払義務が確定し」を「の手形金債権の強制執行として差押命令が送達され」に各改める。

第四結論

よって、本件各手形判決を認可し、控訴人の反訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野信夫 裁判官 岩田眞 井口実)

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